すでに巨人の優勝が決まり、消化試合となったゲームの楽しみ方はタイトル争いに絞られた。
打撃部門首位打者は、DeNAの佐野と梶谷の一騎打ち。
本塁打・打点は巨人岡本が一歩抜け出したが、同僚の丸、ヤクルトの村上、阪神の大山、広島鈴木あたりまで可能性は残っている。
投手部門の勝利投手は菅野で決まり。
防御率は中日大野を猛然と広島のルーキー森下が追撃。
最後の登板次第ではルーキーでいきなり防御率のタイトルを奪取するかもしれない。
明治大学からドラフト1位で入団した森下は、今シーズンここまで18試合に登板し10勝3敗、防御率1.91と圧倒的な成績を残している。
もう新人王も当確。ここに異論は一切ない。
でもさぁ、巨人の戸郷翔征が新人王争いを盛り上げたコトだけは紛れもない事実だ。
今シーズンの戸郷翔征の逸材すぎる活躍は、かなり高い評価をできるはずなのだ。
戸郷翔征という逸材
すい星のごとく現れた救世主
2019年シーズン終盤、巨人に優勝マジックが点灯し、最後のゴールテープを切るだけの状況なのに、なかなか追いすがるDeNAを振り切ることができない。
それほど、巨人は深刻な先発ローテーション不足に苦しんでいたからだ。
エース菅野が腰痛でとても本調子とは言えない状態、屋台骨が揺らぐ先発ローテーションを一人で支えていたのはドスコイ山口。
ピリッとしないメルセデスと高橋の両左腕。
交流戦からローテを支えた桜井の勢いも落ちてきている。
シーズン序盤、クローザー役を務めていたクックをショートスターターに指名したり、マッスル澤村を先発に起用してブルペンデーを採用したりと、まさに先発ローテーションは火の車になっていた。
最後の正念場、勝てば優勝という大事なゲームだというのに、巨人の先発投手はついに底を付き、投げさせる投手がいない状況まで追い込まれていた。
そんな苦境の中、白羽の矢が立ったのはなんとルーキーの戸郷翔征だった。
聖ウルスラ高校出身のドラフト6位。
この年のドラフトと言えば、根尾・藤原の大阪桐蔭コンビや金足農の吉田輝星など甲子園を沸かせたスター選手に注目が集まっていたが、そんな喧騒からはるか遠くにいたドラ6の投手が大事な優勝を決めるゲームの先発に任命されたのだ。
まぁ、この試合に負けたところで優勝を逃すわけでもない。
勝てなくても仕方ないよ。
まだ1年目のルーキーにそんな大きな期待をかけてもコクじゃない?
そんな複雑な心境の中、DeNAとの最終決戦の幕が開けた。
独特のアーム式のような投法から投げ込まれる快速球とちょっとだけ曲がるカットボールのようなスライダーの2種類で、健気にも戸郷はDeNA打線に立ち向かっていった。
3回になぜか一人だけタイミングが合っていた乙坂に2ランを浴びるが、最低限の役割だけは果たし、リリーフ陣にバトンをタッチした。
その後、巨人は粘り腰を見せ、延長戦の末、見事4年ぶりのセ・リーグ制覇を達成した。
先発戸郷の存在がなかったら、コレほどスンナリと優勝を決めることはできなかったかもしれない。
ドスコイ山口の抜けた穴
2020年シーズン、巨人は始まる前から先発ローテーションに課題を抱えていた。
それは、15勝を上げたドスコイ山口の抜けた穴を誰が埋めるか?だった。
この年、巨人はドラフト上位で即戦力投手の獲得はできていない。
FA戦線でもことごとく後塵を拝してしまった。
そこで、巨人は韓国リーグで結果を出したエンジェル・サンチェスに期待をかけた。
しかし、サンチェスはオープン戦からマウンドがぁ・・、ボールがぁ・・、と文句ばかりコネまくり、とてもドスコイの穴埋めになるほどの存在感を発揮することは出来なかった。
田口も安定感がない、メルセデスは離脱する、桜井は今年完全に花が散ってしまった。
おい!先発ローテーション菅野しかいねーじゃねーか?!
と、なってしまいそうな苦しい台所事情で一人気を吐いたのは、若干20歳の戸郷翔征だった。
シーズンオフ、ドスコイ山口の元に自ら入門し、体力作りやトレーニング方法、そして最大の土産物フォークボールという大きな武器を受け継ぐことに成功。
うなりを上げる快速球と、ちょっとだけ曲がるスライダー、そこに鋭く大きく落ちるフォークボールが加わり、戸郷は菅野と二人だけで巨人のローテーションを支える存在にまで急成長した。
もし、今シーズン戸郷がローテーションにいなかったら・・・想像しただけで目眩がするほど戸郷は巨人の先発陣にとって欠かせない投手になってくれたのだ。
シーズン終盤の戸郷
さすがに、戸郷の勢いは1シーズン持ってはくれなかった。
まぁ、高卒2年目のルーキーが1年間ローテーションを守れるほど甘くはないってことだ。
もちろん援護に恵まれない不運な試合もあったし、おそらく最後の登板となるだろう11/3の広島戦も完封を目前にした9回二死から菊池にまさかの2ランを浴び勝ち投手の権利すら消えてしまった。
とはいえ、高卒2年目でほぼ1年間ローテーションを守り続け、8勝6敗、防御率2点台は立派な数字だよ。
カープ森下が残した数字には見劣りするが、チームを優勝に導いた功績も加えれば、新人王投票で数票獲得してもおかしくないんじゃね?という結果は残してくれた。
巨人ファンからすればまずは1年間お疲れ様、そしてありがとうと戸郷には温かい声援を送りたくなる。
もっと大きな期待
新人王を争うくらいの結果を残した若干20歳の戸郷だが、来年以降彼にはさらに大きな期待がかかることになる。
それは菅野智之の抜ける穴だ。
2020年シーズン、腰痛から完全復活した菅野は、開幕投手から13連勝という圧倒的な成績を見せつけてくれた。
巨人史上に残る大エース、チームの大黒柱、精神的支柱の菅野だが、彼をいつまでもNBPに縛り付けておく訳にはいかない。
早ければ2021年、菅野は海を渡りMLBへと旅立つ決意をするかもしれない。
となれば、ドスコイ山口なんかとは比べ物にならない大きなクレーターが巨人投手陣を直撃することになる。
菅野の穴、誰が埋めるんだよ・・・
今シーズン、故障でなかなか結果が出なかった畠がようやく一人前になってきた。
とはいえ、故障上がりの畠はまだ1年間先発ローテーションを回った経験はない。
ドラ1で獲得した亜細亜大学の平内にいきなり菅野級の活躍を期待することはできない。
となれば、もう来年以降の巨人のエースは戸郷翔征、君しかいないんだよ。
もし菅野がいなくなった2021年の開幕戦。
原監督が開幕投手に指名するのは、今の投手陣なら間違いなく戸郷翔征だろう。
2021年、さらに本格化した戸郷翔征が最多勝争いを繰り広げ、沢村賞候補になっている姿を妄想しながら、今シーズンの戸郷の頑張りに祝杯を上げようと思う。